おじいちゃん子の女性です。祖父が亡くなったのはもうずいぶん昔のことですが、多忙な父母に代わって私を育ててくれた恩もあり、亡くなったときは親を亡くしたかのようなショックでした。葬儀は仏教式。おごそかにお通夜が祖父宅で営まれました。たくさんの弔問客。誰もが心から泣いていて、温かい祖父の人柄がしのばれました。宗教方式から、家の玄関の入り口に大きな銅鑼が掛けてありました。これがかなり特大のサイズで、皆これをくぐって家に入るしかなく、頭をぶつける人も続出。「この銅鑼、こんなに大きい必要ある…?」と皆口々に言っていました。祖父と対面のとき、祖父の仕事着だった白衣が着せられ、それに合わせてたくさんの真っ白な百合が入れられていました。さらに百合の花束が回ってきて、祖父の遺体を埋め尽くさんばかりになったとき、嗚咽が漏れ、皆感情をたがぶらせていました。そのときです。なぜかここでバナナの房が百合の花束とともに回ってきました。百合の花に混じって、濃厚な完熟バナナの香り…。弔問客はザワつきました。「なぜバナナ…?」と。すると誰かが「個人の好物を棺にたくさん入れてあげてください」と叫びました。たしかに祖父の一番好きな果物はバナナでした。私は隣にいた伯母に、「バナナ…どこに入れるの?」とささやきました。伯母は「うーん、スペースがないから、百合の上から置こうか…」と戸惑っていました。体のほうはもう故人のメガネや私物で埋まっていたので、残っているのは顔周辺のみ。「この演出はどうなの…?」と思い、バナナの房ごと棺に入れようとしましたが入りません。私と伯母は、バナナをちぎって1本ずつ祖父の顔の横に置きました。幼い親戚の子供がそれをみて噴き出しました。バナナに埋もれる祖父の顔…。しめやかだった空気が、だんだん笑いに変わっていき、私も泣き笑いしながらもなんとなくいたたまれなくなりました。さらに二房目のバナナが回ってきた頃には、祖父の顔はバナナに埋め尽くされ、忍び笑いがあちこちで起きる始末。祖父は戦後の厳しい時代、甘味はバナナだけだったとのことで、そんな切ないエピソードがありつつ、この笑撃の状況に若干ショックを受けました。最後に出棺の銅鑼が激しく鳴ったときも子供たちは爆笑。ある意味明るいお葬式でしたが、「信心深かった祖父本人はどう思うのだろう」と思うと複雑な気持ちになってしまいました。これからお葬式をされる予定のある方は、故人の好物を棺に入れる際、しめやかな空気が壊れないかどうかその内容を確認されるのがいいかもしれません。
28歳女 祖父のお葬式で好物を棺に入れる段になって…
